ライトノベル・レビュー

マルドゥックスクランブル(冲方 丁 イラスト(但し表紙のみ):寺田克也 ハヤカワ文庫JA)

 緻密な心理描写とスピード感のあるバトル。そして3巻中の実に半分をしめるカジノのギャンブルシーン。日本SF大賞を受賞した冲方 丁先生の出世作。SFと聞くと躊躇する人もいるかもしれませんが、ラノベ的な楽しさに溢れてるんで心配無用

 一応、社会の末席に名を連ねる者として、私は知っている。世間ってのは弱肉強食で、他人を貶めたり暴力振るうことに喜びを見出すくそったれな人もいることを。更に、正義の味方なんていなくて、困ってる時に助けてくれる人は少なく、正直者はバカを見ることが多いのも。そして、社会の暗部の矛先にさらされるぼは力無き者〜子供達だということも。

 でも、それでも戦って欲しいと思う。それが本当の苦しみを理解せぬ者の押し付けがましい感情だとしても、その結果より苦しむハメになっても、本人に戦う理由がなくても−本来なら無条件に肯定してくれるハズの親にすら否定されて「自分は生きていていいのか?」と思っても。

 本書は戦う少女の物語だ。戦うことによって、自分を取り戻していく、自分を肯定していく物語だ。そして少女の戦場はカジノ。
 そう、冒頭でも触れたがこのマルドゥックスクランブル、3巻中の実に半分近くがカジノのギャンブルシーンで占められています。しかも、それだけの分量使ってやってるのはルーレットとブラックジャックの2つがほとんどというのだから恐れ入る。
 カイジ読んだことある人ならあの面白さを文章で表してます、といえば分かるかと。読んだこと無い人には、ギャンブルとは高度な心理戦と冷徹な現実主義(計算能力や計画)で戦う頭脳の戦場と言えば分かるだろうか。斬った撃っただけではない、切った張ったも戦いの内。身体能力に於いて相手を屈服させるのも、脳力に於いてひれ伏させるのも勝利に変わりは無い。血による勝利が尊いなら知による勝利もまた尊い、というところ。余計分かりにくくなった気もしますが。

 無論、「ざわざわ」という効果音が似合いそうな心理戦ばかりではない。主人公・バロットからして一度死にかけた体を補うためサイボーグ手術を受けた結果、あらゆる電子機器を遠隔操作する能力を手に入れたし、相棒のウフコックは殆どのものに変身(別次元から取り寄せるらしい)喋る万能ネズミ。一方、ライバルのボイルドは重力を操れる、と少年誌のバトルマンガに出てもおかしkない顔ぶれ。彼らの戦いが、心理すら克明に描写する冲方先生の手によって彩られるわけだから面白くないハズがない。ギャンブルが分量的にはメインといってもラストなど魅せるところでは派手にドンパチやってくれます。

 最後にもう一度言う。この物語は戦う少女の物語だ。しかし単に戦いだけではない。その名の通り煮殺された雛料理(バロット)が、煮え切らない奴(ウフコック)の手を借りて、再び自分を煮殺そう(ボイルド)とする者達との戦いの中で、今までの自分と言うべき殻(シェル)を破って再生する復活祭(イースター)なのだ
(はろmk−II)




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